アクアノートの休日
Aquanaut no Kyuujitsu独自のソナーシステムを用いた海洋生物との触れ合いと、海中探索に焦点を当てた画期的なデジタル体験。明確な目的を排した、没入感あふれるアンビエント・シミュレーションの礎となった名作です。
説明
『アクアノートの休日』は、飯田和敏(後に『太陽のしっぽ』や『巨人のドシン』を手掛けたクリエイター)がディレクションを担当した、いわゆる「ノンゲーム」の先駆けとなった歴史的な探索シミュレーションです。本作は、当時のゲーム界で主流だったハイスピードなレースや激しいバトルとは一線を画し、目的や勝敗を排して「雰囲気」と「癒やし」を最優先した意欲作でした。PlayStationの描画能力を活かした広大な3D空間を構築し、アートディンクによる実験的かつ自由度の高いゲームデザインは、後のゲーム史に大きな足跡を残しました。
物語は非常にミニマルで、プレイヤーは海洋探検家としてただ海中を散策するという、純粋なレジャー体験に身を置きます。明確なミッションや脅威は存在せず、すべては環境の中に隠されています。静寂に包まれた青い海の中には、謎の海底遺跡や沈没船、不気味な石像などが点在し、波の下に眠る失われた歴史を静かに語りかけてきます。どこか孤独で、しかし心地よい閉塞感を演出するアンビエントな音楽が、広大な生態系の中でただの観察者であるという感覚を際立たせています。
ゲームプレイは小型潜水艇からの主観視点で行われ、コントローラーのトリガーボタンに割り当てられた「4音ソナー」を使って200種類以上の海洋生物とコミュニケーションを図ります。生物と同じ音を奏でることで、魚を誘導したり行動を変化させたりすることが可能です。また、珊瑚礁を形成して魚を呼び込み、エリアの生物多様性を自らの手で広げていくこともできます。進行の証は、新たな生物やランドマークを記録する「アクアライブラリー」を埋めていくことのみであり、すべてがプレイヤーのペースで進む自由な体験となっています。
発売当時は、そのあまりに独特なゲーム性から評価が真っ二つに分かれました。「究極のデジタル休暇」と絶賛する声がある一方で、ゲーム性の欠如や当時のハードスペックによる描画の読み込み(ポップイン)を退屈とする意見もありました。しかし今日では、現在の「癒やし系」や「アンビエント」ジャンルの先駆けとして高く評価されており、『FOREVER BLUE』や『ABZÛ』といった後の海中探索作品にも多大な影響を与えています。後に続編も制作され、PS3で発売された『アクアノートの休日 MEMORIES OF SUMMER 1996』も熱心なファンに愛されていますが、実験的なPlayStationソフトの象徴として、本作の立ち位置は今なお揺るぎないものです。